橋本英郎公式サイト「絆」
FRIENDS

vol.14 森本さかえ(ホッケー女子日本代表)

橋本 :それにしてもホッケーのボールって、野球の硬球ばりの硬さじゃないですか?当たったらかなり痛いでしょ?
森本 : 痛いです(笑)。

橋本 :プレーしていて怖いとか思わないんですか?そんなことを聞いていいようなレベルではないと思いますけど…スイマセン(笑)。
森本 : いや、普通に怖いですよ(笑)。プレー中は全然気にならないんだけど、練習とかでスライディングシュートみたいな…遠くのボールに飛び込んでゴールを狙う、みたいな練習をするときは結構、怖いし。前に、ある人が「あんなスポーツを出来る人は根性がないとできない」って言っていたけど、実際、本当に危険な競技ではあると思いますからね。スキルとか状況判断ももちろん必要だけど、一番大事な資質は、本当に根本的な…相手に向かう根性かも知れない。それがなければ、怖いと思った時点でプレーできなくなっちゃうし。
橋本 :防具もつけていないし、ユニフォームも袖なし、短パンってあまりに身体が守られていない格好ですよね(笑)。ピッチを滑ったりするんだから、長袖とかにしたらいいのに…。
森本 : グラウンドは人工芝で出来ているんですけど、プレーする前に水をまいて、滑りやすくしていて。摩擦とかがマシになるようにはしているんですけど、それでも擦り傷は絶えないですね。橋本;ラクロスの方がまだ防具がある状態ですよね。
森本 : そうですね。ラクロスは少なくとも顔はマスクをしていますからね。でも…正直、私はボールが本当に怖いんです。ホッケー選手の方では恐がりの方だと思うし(笑)。ただ、勝ちたいという負けん気の強さと、要領の良さで乗り切っている(笑)。幸い、私はFWですからね。ポジション的にそんなにボールにぶつかる確率は高くないし。ただ、DFはすごいですよ。身体張っていかないと相手をブロックできないし。
橋本 :シュートの速度ってどのくらいですか?

森本 : 女子のナショナルレベルだとだいたい120~150キロくらいかな。オランダとかならアベレージが150キロくらいだし。ちなみに、セットプレーの時だけは防具を着けるのがルール的に許されているので、セットプレーになったら、マスクをつけてプレーするんですけどね。
橋本 :え?!セットプレーの度に防具を取りにいって、つけるってこと?
森本 : そうです。ゴールの後ろに防具を置いていて。しかも、30秒以内につけないといけない、っていう目安があるから、そんな大層な防具はつけられなくて。30 秒以内に着けられる簡単なものしかダメなんですけどね。
橋本 :セットプレーのあと、そのプレーが流れたらマスクは着けたままでいいんですか?
森本 : 最初の1プレーまでは…要はカウンター攻撃のために1プレーまでは着けたままでOKなんだけど、プレーが途切れたらそこで外さなければいけない。しかもその外すために試合が中断することはないので、自分で流れを見計らって外して、しかもそれを元のゴールの後ろに戻さなきゃいけないんです。
橋本 :驚きですね。フィールドに投げ捨てたりしたらダメなんですか?
森本 : ダメですね。ただ近くで外したのを味方のGKが取りに行って戻してくれることはありますけど。
橋本 :慣れたら大丈夫なのかも知れないけど、面倒なルールですね(笑)。ちなみに、これまで大きなケガはありますか?初めてお会いしたのは、あるトレーニング施設で…その時は腰のヘルニアだって話でしたけど、他に骨折をしたこととか、ありますか?

森本 : 鼻は陥没骨折しましたね。スライディングシュートを狙った時に、相手GKのスティックではたかれて陥没…ボールをクリアするみたいに思いっきり叩かれたので、かなり痛かったです。と言っても、その時は試合中だったし、あまり気にもせず、切れているだけかと思っていたんですけど、病院に行ったら「陥没している」と(笑)。すごく腫れていたので、とりあえず冷やして腫れが引いてから手術になったんですけど、「せっかくだから、おかしくないところまで高くしておいてください」と言っておきました(笑)。でも、鼻はケガすると本当に痛いので、二度とやりたくない…もう治さなくてもいいかなって思うくらい、治すのが痛いし(笑)。あとは打撲くらいで、大きいケガはしていないですね。
橋本 :顔のケガが一番多いんですか?
森本 : いや、私が多いみたいです(笑)。ない人は全然ないんですけど、プレースタイルにもよりますね。私は海外でもプレーしているんですが、海外だと相手がデカイので、ちょうど相手の肘が私の顔のあたりにくるんですよ。なので良く当たる(笑)。
橋本 :それでも大きなケガがないっていうことは、基本、ケガには強いっていうことかなぁ。
森本 : 私の場合、身体が硬すぎて足首グネッたり、膝をひねったり、っていうところにいかないらしい。いいように言えば、うまく交わしているっていうことになりますけど、おそらくは、身体が硬いからそんなにケガをしないんだろう、って言われたことがある。
橋本 :そう言われてみれば、サッカーも外国籍選手は意外と身体が硬くて…うちのチームのルーカスやバレーも結構、硬いんですよ。ただ、ルーカスなんかは、身体は硬いけど、サッカーに必要な股関節とかは柔らかいんです。だから少々あわせにくい高いボールが来ても、足があがらないっていうことはないし、変な体制になってでもそこに足が届くような動きが出来る。あれは驚きですね。ちなみに、マウスピースくらいはしているんですよね?
森本 : しています。ただ、歯を治療中の時に1日だけマウスピースをつけていなかったことがあって…そしたら、たまたま、相手DFのスティックが当たって、折れてしまった。たった1日つけていないだけだったのに…あれは不運でした(笑)。マウスピースさえ着けていたら、歯は折れなくて、唇が切れるだけで済んだのに…。
橋本 :どっちにしても痛そうやけど…。
森本 : いや、歯の方がダメージは大きいですよ。だって、歯はボールを打つ時に,相当強く噛み締めるので…一度、練習で打った瞬間に歯が縦に割れたことがあって、あれにはすごいびっくりした(笑)。きっと、それだけ重力がかかっているんでしょうね。実際、シュート時の写真とかみたらすごい踏ん張っている顔をしているし(笑)。
橋本 :さっき、海外でプレーしているっていう話が出ましたけど、実際にスペインとかに行ってるじゃないですか?それはどんな仕組み、タイミングで行ってるんですか?
森本 : まず海外でプレーするのは基本、個人交渉です。向こうの監督に声を掛けられることもあれば、所属企業を通していく選手もいるし。私の場合は基本、全て個人でやっているんですけどね。言葉も英語圏内だったら問題ないので、この間、スペインに行った時も英語で交渉して、現地ではスペイン語を勉強して、使っているうちにだいぶ話せるようになった、っていう感じでした。
橋本 :年俸とかも自分で交渉するっていうこと?
森本 : そうですね。これくらい貰わないと困るとか、こういう条件じゃないと行かないとか、こちらの言い分を一応主張して…。
橋本 :国によって、このくらいの年俸が平均、みたいなのがあるんですか?

森本 : ありますね。しかも国によって待遇が全然違いますし。あとシステムも…オランダリーグとかは世界でトップのリーグって言われているけど、意外とウエルカムで。一流選手にしかお金は払わないけど来たいなら来れば?っていう感じで、受け入れてはくれるんです。もちろん、そういう選手にはお金は払われないんだけど。
橋本 :最初に海外に行ったのはオーストラリアでした?
森本 : はい。当時、富山のゴールドウィンに所属していたんですけど、ちょうど富山国体が終わった段階で、諸事情から休部になって。そのままホッケーをやめて会社に残った人もいたし、他のチームに移籍した人もいたんですけど、私は12月にやめて、翌年の4月には天理大に入ることが決まっていたので。だから、その間の3ヶ月間、オーストラリアでホッケーをしていました。私が天理大の学生だった時のコーチがオーストラリア人だったという縁もあったし、ちょうどシドニー五輪予選に負けた後で、このままではダメだ、という思いもあって。しかもシドニーではオーストラリアが優勝していたので、一度オーストラリアでやってみたいと思うようになった。
橋本 :込み入った話になりますけど、オーストラリアとか、スペインに行くのって基本、航空代だとかは自分でまかなうんですよね?
森本 : 私の場合は完全に個人ですから、そうなりますね。サプリメントかは、個人的にグリコさんとかから応援していただいていますけど、それ以外は基本、全て自腹です。
橋本 :そこまで頑張れるホッケーの魅力って何ですか?
森本 : スピード感とプレーの激しさかな。ボールも小さいし、生で見てもらうとすごいスピード感があるスポーツだと分かってもらえると思うですけどね。
橋本 :今さらながら、基本的な質問なんですけど、きっとこれを読んでいて、疑問に思っている人がいると思うので、改めて聞きます(笑)。今は天理大学に所属していますけど、学生ではなく大学職員ですよね?っていうことは、天理大学はクラブチームでもある、ということですか?
森本 : いま、日本国内では、日本リーグと、学生、社会人と3つのカテゴリーがあるんですけど、日本リーグに登録しているチームは8チームしかないんですよね。で、天理大学というのは学生としても戦うけれど、日本リーグの登録チームでもある、と。ただ、当然ながら大学生としての試合には学生しか出場できないので私は出られないんですけどね。
橋本 :なるほど。確か日本代表選手は日本リーグに登録しているチームからしか選ばれないんですよね?

森本 : その通り。ただ、私も含めて日本リーグが発足する前から日本代表だった選手もたくさんいますからね。じゃあ、その人たちはどうすれば代表になれるのか、っていう話になった際に、強化指定選手っていう加入選手制度が出来たんです。これは、例えば天理大学のように、学生ではなくても選手登録できるっていう制度で。要は、日本代表になるために、名前だけでもいいからどこかの日本リーグのチームに所属しなければいけない、っていうことからできた制度なんですけど。
橋本 :じゃあ、普段は社会人として大学職員の仕事もされているっていうことですか?
森本 : そうです。合宿とか何もない時は朝から大学に行って、職員としての事務的な仕事をして、夕方からコーチとして学生の練習をみて、自分もトレーニングをして、っていう感じです。
橋本 :選手とコーチ兼任はいつから?
森本 : 天理に戻って来てからだから、25才からですね。
橋本 :早いですね?!
森本 : 早いですね(笑)。最初は…っていうか今でも一緒にプレーしながら教えている感じですけど。本格的に采配を奮うようになったのはここ3年かな。今の監督は、長く現場を離れていた方で、しかも着任したばかりということもあり、この3年は自分がコーチという立場で、メンバー決定も、ゲーム中の交代とかも指示をするし。
橋本 :それって自分をメンバーから外すこともあるんですか?
森本 : 一応、自分は出ます。出て、プレーしながら、ベンチの選手に「準備して」って指示を出したり、微妙なことをやっています。
橋本 :古田さん状態ですね。「代打、俺」みたいな(笑)。
森本 : そうですよ。セットプレーの戦術とかも自分が指示を出すし…。
橋本 :指導も面白いですか?
森本 : 勉強にはなりますね。選手の中で思っているだけのことじゃ回らないっていうことも分かっているし。
橋本 :ただ、まだそれには専念するつもりはない、と。
森本 : 北京が終わるまではとりあえずは、ないですね。北京が終わったら…終わってからまた考えます。
橋本 :今はとにかく北京だ、ということですね!今日は長々と根掘り葉掘り、いろんな話を聞かせてもらってありがとうございました!みんなで応援していますから、自分に悔いのないよう、空気にも気をつけて(笑)、頑張ってきてください!
森本 : ありがとうございます。帰って来て、またいい報告ができるように頑張ってきます!

text by/misa takamura

森本さかえ/プロフィール
1977年1月20日生まれ。奈良県出身。天理高校時代にホッケーをはじめ、天理大学に進学。卒業後の99年にゴールドウィンに入社し日本リーグ、社会人、全日本、そして国体の四冠を獲得するなど強豪として名を馳せたが、00年12月に休部。それに伴い01年、天理大学に移籍。天理大学職員として在籍し、同大学の社会人ホッケーチームの選手兼コーチとしてプレーを続けている。またリーグの合間を縫って05年9月にはスペインリーグ『オレンセ』に日本人選手として初めてレンタル移籍を実現した。
代表歴は大学2年時に初めて日本代表(現さくらジャパン)入り。04年にはアテネ五輪に出場し、8位入賞に貢献。世界のトップ10プレーヤーにも選出された。以降、05年の『第4回東アジア競技大会』の金メダル獲得をはじめ、07年には『第6回アジアカップ』で優勝するなど、目覚ましい成績を残しながら成長を続ける女子ホッケー界にあって、必要不可欠な存在として活躍を続けている。ポジションはFW。165センチ、63キロ。