橋本英郎公式サイト「絆」
FRIENDS

vol.6 河野亮(楽天野球団)

橋本 :って聞けば聞くほど、聞きたいことが増えていく感じなんですけど、今日は現役を引退するタイミングについても聞いてみたいなと思っていて。実際にプロでプレーしていた人に直にそういう話を聞けるタイミングってあまりないので。亮さんの中で引退を決めた理由みたいなのはあるんですか?

河野 :現役をやっている時から僕の中で決めていたことがあって。『自分の目標として、30才になった時点でレギュラーになれなかったら、とりあえずそこで自分の中でそれでも野球を続けるか、社会に出ようかを考えよう』ということなんですけどね。結果的に、01年に…ちょうど30才でオリックスから戦力外通告を受けたんだけど、その時にどうしようか、って考えて…その時は、西武へのトレードの話とか、イタリアのチームから声を掛けてもらっていたり、っていうことがあったんですけどね。ちょうど10月に、そのイタリアのセリエAのチームからオファーを貰ったりはしていたんだけどアメリカのメジャーリーグそのものがチーム数を削減するだとか、っていう話が持ち上がっていたタイミングだったりして、結局、12月まで「テストを受けにこい」っていう話が来なかった。で、その時に、今、ソフトバンクで1軍のヘッドコーチをしている秋山幸二さんに「実は就職も1つ決まってはいるんですけど、イタリア移籍をどう思いますか?」って相談をしたら、「イタリアのプロ野球なんて、先がないから野球をやめろ」ってあっさり言われて(笑)。その言葉でなんとなく自分でも踏ん切りがついて、じゃあ、引退しよう、と切り替えた。といっても、その時点で既に就職を考えて履歴書を各社に送ったりもしていて(笑)。戦力外通告を受けた際に縁のあるいろんな会社の人が声を掛けてくれていたりはしたんですけど、とりあえず自分の力でやってみようと思っていたんですよね。で、結局、11社受けて、 10社受かって、その中から決めたんですけどね。
橋本 :すごいですね。就職活動とかも初めてですよね?戸惑いとかなかったですか?
河野 :そんなことも言っていられなかったしね(笑)。それにずっとプロ野球界しか知らなかった訳だから、サラリーマンとして社会に出て、始発に乗って会社に行ったり、帰りが終電になったり、っていう大変さみたいなものも肌で感じなきゃいけないな…っていうことを、ある意味、楽しみに感じていた部分もありましたから(笑)。で、実際、3年間、普通にサラリーマンとして働いて、その後、楽天から声を掛けていただいたので、いいタイミングだな、と思って入った、と。
橋本 :すごい話ですね…僕もいずれ、そういう時期が来ると思うので(笑)、参考になります。で、サラリーマンの後は、楽天が出来たタイミングで入社したんですか?
河野 :そうなりますね。だから入った時はまだ何も組織ができていなくて。田尾安志さんが監督に決まって、コーチ陣のだいたいの振り分けが決まったくらいで、それ以外は何も、決まっていないような状態でした(笑)。
橋本 :で、今はどんな感じなんですか?
河野 :もちろん、それぞれがそれぞれの場所で頑張っている中で球団としても、良くはなっていると思いますよ。ただ、野球界って結構、選手が引退して、即、監督やコーチになることが多いですからね。そのせいか、僕も含めてどうしても組織だって話をしたり、順序良く上にもっていくっていう能力が、いろんな意味で足りないなって思うことはあります。
橋本 :野村克也監督はフロントの運営にも口を出されたりするんですか?
河野 :いや、されないですね。もちろん、コーチングスタッフをこうしてくれ、とかっていう話はありますけど、直接、フロント側に言うことは一切ないです。もちろん、あれだけのキャリアがある人ですから。逆に何かがある時は球団代表が野村監督にもちゃんと話をしながら進めて、っていうことはあります。
橋本 :会ったことはないんですけど、ああ見えて実は細かい人だったりしますか?
河野 :いや、そんなことはないですよ(笑)。ただ、大事なことを後から聞いたりしたら、聞いてないよっていう話には当然なりますよね。それは2軍の監督も同じだし、監督をされる人はみんなそうだと思いますけど…そのへんをしっかりやっていれば、やりやすい監督だと思いますよ。実際、僕は1軍で何かがおきた時にはフロントとチームの間に入ってそれを聞いて、フロントスタッフやファームの首脳陣に伝える役目をしたりもしているんですけど、やりづらさは感じていないですね。
橋本 :他にはどんな仕事をされているんですか?最初におっしゃっていたディレクターとしての仕事が気になります。
河野 :今、主にやっているのが、若い選手で将来、1軍に行きそうな選手の特別な育成というか…今年は4人ピックアップして、2軍戦では優先的に起用したりっていうことをしていますね。これは最初にも話した、アメリカのマイナーリーグではすでに導入されていることなんですけどね。
橋本 :他のチームではまだ取り入れられていないんですか?
河野 :そういう風に、意図的にいい選手を使おうと思っているんだなっていうのは、どのチームも分かりますけどね。ただ、うちは更に踏み込んでというか…その選手の報告書みたいなものを毎月作って、例えば、右バッターの選手なら、左ピッチャーに対しての打率がどうだとか、140キロ以上のストレートに強いとか、変化球に強いとか、っていうことが具体的に分かる数字を出して、2軍監督に話をして、指導法や起用方法を再検討してもらったり。「いまはこんな風に教えているけど、もう少しこういう部分で修正が必要じゃないか」などといった話をしたりもしています。
橋本 :なんかすごい話ですね。やっぱりそういう数字的なものは野球ではすごく大事に考えられるんですよね?

河野 :そうですね。そういえば、日本でもヒルマン監督が日本に来た際に日本ハムがそれを導入した様に思いますね。ダルビッシュ投手もそうだったんですけど、段階的にイニング数を増やしていくっていうことをやっていて、確か1年目が5勝、2年目が12勝でしたからね。成果が出ていましたけど、あれもヤンキースの育成システムを持って来たんじゃないかなぁ。ヤンキースでピッチャーをやろうと思ったら、コンスタントにストライクが65%以上入らないとメジャーには上がれないそうですよ。実際、うちも今年は、確か2軍でもピッチャー全員が65%前後のストライク率だったと思います。ただ、インディアンスは70%だからもっと高いんですけどね(笑)。
橋本 :そういう数字的なもので比べると日本のピッチャーはどうなんですか?
河野 :日本の投手は正直、そこまで、なかなか到達しない投手が多いですね。
橋本 :じゃあ日本からボストンレッドソックスに行った松坂大輔さんとか、海外に移籍するピッチャーというのは、基本的にその数字を優にクリアしている人なんですね?
河野 :間違いなくクリアしていますね。松坂以外にもそうやって…日本から獲ろうとしているような選手がいるじゃないですか?そういう選手は間違いなく彼らの数字をちゃんと知っているはずですよ。
橋本 :ピッチャーに関してはそうやって分かりやすいですけど、内野手や外野手についてはどんな風に評価するんですか?
河野 :スローイングの正確性とか、そういう部分での数字を出しますよ。ただ、基本的にはバッティングですからね。バッティングでの数字が重視されています。
橋本 :じゃあ極端な話、守備が出来なくても打てればいい(笑)?
河野 :まあ、そうですね。打てる選手は守れるポジションを探してもらえたりもしますから。それに日本の場合、パ・リーグにはDH(注:designated hitterの略。指名打者の意)がありますからね。
橋本 :確かに、そう言われてみると、サッカーみたいに『守備に定評がある』っていう選手がいたとしても、野球の場合はイメージが沸きにくいですよね。だって変な話、プロ野球ではみんな守備の時にミスをしないというか…ボールが飛んで来てエラーをするっていう確率がすごく少ないように思う(笑)。
河野 :確かにそうですね。ただ、テレビでは分かりづらいかもしれないけど、実際に球場にいってずっと見ていると、例えば「あ~今の打球は●●選手だったら獲れていたのにな」っていうシーンは多々、目にしますけどね。エラーにはなっていないけど、ヒットになっているというか。巧い選手っていうのは、ヒットにさせないっていう感覚がありますから。例えば、交流戦って05年から始まったんですけど、当時のうちの第1戦の相手がジャイアンツで。試合を見ていたら、やっぱりジャイアンツの仁志敏久選手は巧かった。守備位置を動かしたりしていても、飛んでくる前に動いて、さばいてる。あっと思ったボールでもだいたい正面で捕れていますからね。
橋本 :へえ~。僕は結構野球を見ている方だと思うんですけど、そうやって聞いていると全然分かってないですね(笑)。そういう見方が全くできていなかったです。実際、ぼっ~と野球を見ていたら、ピッチャーが投げた瞬間には、獲る人の方に眼がいっているじゃないですか?でもって、その間の動きっていうのは全く見えてない…っていうか、見たことがありませんでした(笑)。じゃあ、そういう守備がうまい選手っていうのはどういう部分で長けているんですか?
河野 :やっぱり球種とかキャッチャーのサインとか、ピッチャーとバッターのタイミングの取り方とかを、しっかり見ているんだと思いますよ。それと経験ですね。第六感。ただ、僕もサッカーは好きで良く見ていますけど、実際、分からないことが多いのと一緒じゃないかな(笑)。ただ…これは僕の持論なんですけど、野球でもサッカーでも、いい選手っていうのは下半身が柔らかいと思うんですよね。実際、下半身が柔らかい選手って疲労度も、ケガをする頻度も違うと思いますし。特にプロのように長丁場のシーズンを戦う上では、そういう部分が活かされるように思うんですけど、どうですか?
橋本 :なるほど…下半身の柔らかさがカギですね。明日から意識してみます(笑)。

text by/misa takamura

河野亮/プロフィール
1971年5月3日生まれ。ヤクルトスワローズ、福岡ダイエーホークス、中日ドラゴンズ、オリックス・ブルーウェーブでプレーした後、某スポーツ用品販売店でのサラリーマン生活を経て、05年に株式会社楽天野球団に入社。東北楽天ゴールデンイーグルスの二軍総務を経て、現在は、チーム統括本部 編成部 ファームディレクターを務める。