橋本英郎公式サイト「絆」
FRIENDS

vol.32 岩城ハルミ(元バドミントン選手)

橋本:バドミントンをする上で一番求められる能力は何ですか? やっぱりバネ?
岩城:バネは…確かに大切ですけど、飛び過ぎてもダメらしいんですよね。なんて言うか、バネといっても、ピョンピョンと飛び跳ねるようなバネは良しとされない。
岩城:それよりも地を這うようなフットワーク力の方が必要ですね。結局、ピョンピョン飛んでいるような人はバンっと打ち込まれたら終わりですから。もちろん、ジャンピングスマッシュとか部分的にバネが求められるプレーもあるけど、女子はそんなに使わないですしね。だから子供に指導する時も、ピョンピョンと跳ねてプレーする子には跳ねないように注意します。実際、プレーしてみたら分かると思うのですが、バドミントンは上に跳ねるというより、すり足で前に飛ぶ感じですからね。そういう意味では足の指先の強さ…特に親指の強さは求められる。特にバドミントンは、前に行って、すぐ後ろに戻るっていうような前後の動きが多いだけに、グリップ力というか、親指の強さが必要になる。実際、そういう動きに強い子は裸足を見たら分かりますよ。足の5本の指がしっかり開ける子は、地面を捕まえる力もある。
橋本:(足の指を開いてみせて)僕、どうですか?
岩城:結構、いい指をしています(笑)。やっぱり利き足の右の方が指が開いていますね。でも、競技性からしてプロサッカー選手はみんなある程度、グリップ力があると思いますよ。
橋本:良かった。褒められて(笑)。
岩城:あと…これは能力とは違うかもしれないけれど、やっぱり練習量と強さは比例すると思います。これはどのスポーツでも同じだと思いますけどね。実際、私も練習量だけは負けないというか…走り込みも、かなりやってきただけに、やっぱりそこが基本だと思ってしまう。だからこそ、今、サッカーをしている息子たちにも、そこを強調したいんですが、無理矢理やらせたくもないし、本人たちが感じなければ意味がないので、そこは我慢、我慢で(笑)。
橋本:やっぱり自分が育てられてきた過程を間違いじゃないと思える人は、指導者になってもそれを受け継いで行くところってあるんでしょうね。ハルミさんが「やっぱり練習量だ」と言い切れるのも、それでご自身が結果を出してきたからだと思いますしね。

岩城:それはあるかもしれません。それに…世界で勝つためには、そういう日本人的なプレースタイルが絶対に必要というか。走り込むことによって身につけたエネルギー、メンタリティが日本人選手の武器になるし、海外にも通用する要素にもなると思いますから。だからこそ、私はその部分を強調したいというか。バドミントン界もいろんな意味で変化をしている中で、新しいことを取り入れることは決して悪いことじゃないとは思うんですよ。でも、それはあくまでもベースを大事に考えた上でのプラスアルファの部分であって、全くもって日本人独特の武器を排除してしまったら、絶対に世界では勝てない。そう思うからこそ、自分の指導では走り込みもさせるし、厳しい練習もやらせます。
橋本:言っていることはすごく分かります。僕もどちらかと言えば、厳しい育ち方をしたというか…ジュニアユース時代もユース時代もとにかく走り込みが多かったけど、今はどちらかと言えば科学的なトレーニングになっている、と。それによって技術は巧い選手も増えたけど…なんていうか、例えば下部組織からトップに昇格して来た選手って、そろいも揃ってゆる~い感じなんですよね(笑)。才能も技術もすごいけど、でも緩い。稀に宇佐美貴史(バイエルン)のような選手もいますけど、彼が海外に行けたのは、結局、個人的に負けず嫌いな面を強く持っていたからだと思うんですよね。つまり、下部組織にいて鍛えられたものというより、持って生まれたもので、それがベースにあった上で技術を身につけられる環境があったから成長できた。ただ、最近の下部組織出身の選手にはなかなかそういう気持ちの強さを持った選手はいないというのが正直な印象ですね。事実、それを証明するように、今、海外でプレーする選手の殆どが高校サッカー出身の選手ですからね。彼らにはそういうメンタル的な強さがあるから海外の環境でも戦える強さがある。日本代表を見ていてもそうですよ。例えば、02年の日韓大会の時は、ユース出身の選手が 2~3人いて、それが10年の南アフリカ大会で増えたのかと思いきや、全く増えてなくて、下部組織出身の選手は確か3人だけでしたからね。考えてみたら、 Jリーグも20年の歴史があるというのに、結局、ワールドカップや五輪に出ているのは、高校や大学出身の選手が殆どですから。そのことをどう考えるかですよね。近年、下部組織からプロになる選手を見ていても、絶対に技術や才能は目に見えて高いのに、そこからどれだけ頑張れるかとなれば…なかなか結果が出せない。それはやっぱりメンタリティの問題だと思う。高校や大学でいろんな経験をしてきた選手に逆境に打ち勝っていける強さがあるのに対して、下部組織出身選手は、能力は高いのにそれがない。まぁ、僕も下部組織出身だし、下部組織を否定する訳ではないけど、いずれにしても、やっぱりメンタルを育てることを考えなければいけないとは思います。
岩城:そこは絶対に必要だと私も思います。でも、それって教えられない部分でもあるから難しいんですよね。いくら大事だと言っても、本人が自分で感じ取ることができなければ本当の意味での強さは身に付かない。プレーなんて、一瞬一瞬のことで、その都度、誰かからアドバイスをもらえる訳ではないですからね。
橋本:その通りだと思います。ただ今の日本の教育を見ていると、競争をさせないことをヨシとする傾向にありますからね。それは大きな問題というか。運動会でも順位をつけない学校があるって聞いたけど、そんなことは絶対に考えられない! 結局社会に出れば順位付けされるし、どんな会社に入っても仕事ができなければ給料はあがらないし、昇級もないという現実があるのに、子供時代にそういった競争意識を植え付けないなんてことをしていたら、社会に出た時に間違いなく脱落してしまう。
岩城:私もそれは本当に同感です! 急に競争しろと言われて、できるものではないですからね。子供の時から厳しい競争をかいくぐってこそ、培われるものは絶対にある。それに競争があるから、それにともなって『勝ちたい』という気持ちが芽生えるだろうし、だから練習しよう、考えようってことになるはずですからね。ただもちろん、そうはいってもメンタル、メンタルばかりでもいけないし、時代の流れを汲んだ中で、私たち指導者も学ばなければいけないところも絶対にあるとは思っています。

橋本:単にスポーツをするだけでも楽しさを覚えられるかもしれないけど、そこに勝ち負けがあってこそ、楽しさが増すことも間違いなくありますからね。実際、ハルミさんもそうだったと思いますが、勝つことの喜びがプラスに働いて結果を残せている人もたくさんいる訳ですから。ただハルミさんのように、そういうスパルタの中で頑張った先に、例えば五輪出場とか、結果が残せた人はいいけど、逆にそうじゃなかった人が指導者になった場合は、自分が育てられてきたことと全く逆のことをする可能性はあると思うんですよね。っていうか割合で考えればきっとそっちの方が多い。もしかしたら、だからこそ、競争させることをしなくなっているのかも知れないし…難しいですね。
岩城:自分のことなら自分が頑張ればそれでよかったけど、誰かを教えるというのは、本当に難しいなと思います。中学時代、私が先生に言われたように、可能性のある子供たちに対して「頑張れば日本一になれるチャンスがあるよ」ってことを言ったところで、それが間違いなく子供の心に響くとも限らないですしね。ただ、そこは指導者になった以上、私も逃げずに取り組んでいかなければいけない部分だと思っているので、粘り強く教えていくしかないとは思います。
橋本:ハルミさんご自身は、そういう負けん気の強さをどの時代に一番培ったと思いますか?
岩城:う~ん…基本は持って生まれたものというのも大きいかな。振り返れば、小学生の時から例えば走ることをひとつとっても、競り合うとゴールの手前で横の人に肘をいれてでも勝ちたいみたいなタイプでしたから。しかも、無意識に(笑)。
橋本:運動神経は総体的に高かったですか?
岩城:いや、高くないです。基本的にはバドミントン以外のことをやると絶対に一番にはなれないタイプだったから。ただ…稀に優れているものもあるんですけどね。
橋本:それは?
岩城:ボウリング(笑)。あと水泳もできる方かなあ。
橋本:ボウリングのスコアはどれくらいですか?
岩城:250くらいだったはず…。
橋本:え~っ?! それ、かなりの腕前ですけど!
岩城:以前、主人がセレッソ大阪に務めていた時代に行われたボウリングの家族対抗戦に参加したことがあって。周囲の方にはオリンピック選手だっていうことを言っていなかったから、かなり驚かれました。
橋本:でも逆に、その場で「私オリンピックに出たんです」と言われてもビビりますけどね(笑)。
岩城:あ、でもボウリングくらいで、他は全然ダメですよ。跳び箱とかも全然飛べなかったし…。
橋本:跳び箱?!その競技が出てくるあたりが“体育館競技”育ちだなっていう感じがしますね。僕なんか殆どの時間を屋外にいた選手は、絶対に跳び箱なんて発想がないから(笑)。ちなみに、バドミントンではどんな技というか、プレーを得意としていたんですか?
岩城:私が得意だったのは…カットって分かります? シャトルの羽根の部分をこするように叩くというか…しかも、緩くなら誰でも打てるんですけど、私の場合はかなりの全力で切っていく分、ストンと落ちるので、殆ど誰もとれなかった。
橋本:シャトルの羽根の部分を打っていいっていうこと自体を今、初めて知りました(笑)。でもあそこを打つとなれば…想像するに、結構勇気がいりますよね?!
岩城:そうなんです。なかなか思い切れる人は少ないと思います。シャトルの堅いところを打つのと同じ感覚で羽根の部分を切るわけですから。
橋本:あのバドミントンのシャトルの速さってどのくらいなんですか?

岩城:初速は男子で330キロ、女子で270キロくらいかなぁ。初速っていうのはつまり、当たった瞬間のスピードですが、球技の中ではおそらくバドミントンが一番速いはずです。しかも、見た目の速さと実際の速さは人によっても違うというか。身体の入れ方で全然変わってきますからね。例えば、身体を入れずに手だけでパンっと打つ人って、そのスピードが相手に届くまでに失速してしまうんですが、しっかり身体を入れて打っている人はスピードが失速せずに相手の懐まで食い込んでいきますからね。だからパッとみたら巧くても、実際に球を受けたらそうでもない、っていう選手は結構います。
橋本:野球みたいですね。野球のピッチャーもスピードの速い選手はいろいろいるけど、球の伸びが人によって全然違うって言いますからね。じゃあ、視力はいいですか?
岩城:動体視力はすごいと思います。自分では気づかなかったけど、普段の生活の中で蚊を捕まえるのもすぐにパンッと一発でしとめられますから(笑)。
橋本:すごい…ある意味、技ですね(笑)。

取材協力/dieci
text by misa takamura

岩城ハルミ/プロフィール
1965年6月24日生まれ。大阪府大東市出身。中学1年生時に本格的にバドミントンをはじめる。中学~短大までを過ごした名門・四条畷学園では、高校2年生時に日本一の座を手に入れたのを皮切りに、卒業までその座を守り抜く。卒業後、所属した三洋電機ではケガに苦しむことが多かったが、2年半のリハビリ生活を経た88年。復帰戦となった全日本社会人大会で優勝し、劇的な復活を遂げる。以降もコンスタントに結果を残しながら、92年のバルセロナ五輪への切符を手に。同大会への出場後引退した。現在は『ヨネックスアドバイザリー』スタッフ、『オリンピアンズ協会』『大阪市ゆとりとみどり「夢・授業」講師や『パナソニックジュニアバドミントンクラブ』のコーチングスタッフとして小中学生の指導にあたる。<岩城浩平オフィシャルブログ/http://pure-city.jp/kohei/index.html