橋本英郎公式サイト「絆」
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vol.9 橋上秀樹(楽天一軍ヘッドコーチ)

橋上 : さっきの下部組織の話に戻るけど、ガンバユースで育った選手は基本的に、ガンバでしかプロになれないの?
橋本 :基本はそうですね。クラブ側がトップチームに昇格させようと思っている選手については、他のクラブに交渉権はないですから。ただ、トップチームが欲しいと言わなかった選手については、他のクラブに行けたりもするんですけど。と言っても、現実的に、そういう選手は大学に行ってプレーをしているケースの方が多いと思います。
橋上 : 少数精鋭の争いっていうのは相当厳しいんでしょ?
橋本 :そうですね。僕らの時代は高校に入るタイミングでいい選手の争奪戦が繰り広げられた感じですけど、今は中学生になる時点で争奪戦がありますから。って考えただけでも、いかに狭き門になっているかが分かる。

橋上 : 同級生の息子さんがサッカーをやっているんだけど、その子もプロクラブの下部組織でプレーしていて。話を聞いていたら実際、大変そうだよね。下部組織に所属していても絶対にプロになれる訳じゃないし、毎年プロに昇格させている人数を聞いても厳しいんだろうなって思う。
橋本 :実際、能力のある選手でも、プロの下部組織に入ったことで試合に出られなくなることはよくありますからね。僕らの時代はそこまでじゃなかったけど、今は全体的なレベルがあがって、中学や高校では必ずレギュラーになれるような選手でも、下部組織だと控えに回らざるを得ないというような現実があり、それによって才能が潰れてしまうこともなきにしもあらず、ですから。それでも、下部組織でやることを選ぶのか、試合に出られるチームを選ぶのかっていう部分で、選択もすごく難しいんじゃないかと思います。
橋上 : サッカー人口もすごく増えているから、余計にそうなっていくんだろうね。でも、でも小学生、中学生の時代から、下部組織で育てるっていう発想は僕はすごくいいと思う。プロ野球界にはないシステムだけど。
橋本 :確かに一連の流れの中で選手を育てられるし、チームのスタイルみたいなのも継承されていますからね。特に近年のガンバの場合はその色が出てきたように思います。ただ、その色が…最近は「逞しさが足りない」って言われたりもするんですけど(笑)。
橋上 : 失礼ながら言わせていただくと、ガンバ大阪ってJリーグの発足当時からあったのに、最初は全然強くなかったですよね?
橋本 :確かに、ここ3~4年で強くなった感じですね。05年にやっとリーグ初優勝ができたくらいですから。
橋上 : 強くなった理由としては、そういう下部組織の存在も大きいのですか?
橋本 :その影響はあると思います。あとは時代の流れの中で、僕みたいな選手でも22才くらいから…まだ若くて、他のチームなら出場機会がないのにな、っていう時代から使ってもらえたのが大きかった。というのも、僕らが22歳前後の時に、26~28才くらいの選手が他のチームに移籍して、若手を使わざるを得なくなったというか。それによって、当時の先発メンバーの平均年齢が23歳とか、Jリーグの中でも群を抜いて若くなった。で、そのメンバーでずっと一緒にやってきて、試合経験も積んで、組織力も高まって…という中で05年に優勝できたんですよね。実際、そうやって試合に出始めた頃から「少なくとも25、26歳くらいになった時にタイトルを獲れるチームになっていないとキツいよな」っていう話はみんなでしていたんですけど、幸い、それが実現できたという感じです。これは今の浦和とかにも同じことが言えるというか…実際、日本代表に入っている浦和の選手たちの年齢もみんな、25~27歳くらいの間ですからね。
橋上 : 考えたら、浦和レッズとかだって、昔は応援こそ凄かったけど、全然強くなかったよね。
橋本 :それが今ではJリーグを代表するお金持ちクラブですよ。っていうか、東北楽天ゴールデンイーグルスも経営的には潤っているクラブなんですよね?
橋上 : 資金はあるって聴きますけど、実際に中にいる僕たちは全然分からないなぁ(笑)。

橋本 :毎年の契約交渉ってどんな感じで行われるんですか?野球の場合、数字がしっかりと出るスポーツだし、ある程度細かく規定があるみたいだから、金額というのは実際、想像できる範疇で決まっていくものなのかなぁ、って思っているんですけど。
橋上 : 僕はもう選手じゃないので、今の楽天の契約のこととかは全く分からないけど、自分の現役時代の経験で話をすると、結構、プロ野球の契約はアバウトなところもありますから(笑)。だから僕は絶対に契約交渉の場では自分の考えを言うべきだと思っていました。他の選手のことは、契約に立ち会っている訳じゃないからどんな交渉をしているかは分からないけどね。そう言えば、前から思っていたんだけど、プロ野球に比べてJリーグは試合数が断然少ないよね?
橋本 :リーグ戦は年間34試合ですからね。他にカップ戦とか、ACLとかありますけど…。リーグ戦だけでは野球の4分の1くらいじゃないですか?
橋上 : って考えると、試合を開催することで利益を生むのが難しい世界だよね。
橋本 :そうですね。その試合数だけに、試合を見に下さる観客の方からのお金っていう部分でも限界があるし、その試合数だからこそ、スポンサーの方にサポートしていただける金額も制限がでてくるし。
橋上 : 確かに、試合数が少ない、イコール、メディアへの露出も少ないって考えたら、なかなかスポンサーからもお金を引き出せない。
橋本 :だから毎年契約更改の時も、野球界とのあまりの違いに悲しくなります(笑)。ただ、サッカーはさっきも言ったようにリーグの合間にカップ戦があったり、代表の活動もあったりしますからね。日程的にみても、それ以上の試合を組みにくい状況ではあると思うんですけど。
橋上 : 確かに、サッカー界での日本代表のステイタスは高い感じもするしね。
橋本 :そうですね。プロサッカー界の頂点は、ワールドカップですから。って考えても代表のステイタスは高くなる。
橋上 : 野球の場合は以前までは、そういった世界大会がなかったですからね。最近はようやく日本代表への意識も見られるようになったけど、僕らが現役の時は全くそういう感じではなかったし。

橋本 :だからかなぁ。今の野球の日本代表に対する注目のされ方ってすごいですよね。実際、ピッチャーが巨人の上原で、キャッチャーが阪神の矢野で…って聞いているだけでもワクワクしてくる(笑)。逆にサッカーは、日本代表というのがすっかり当たり前の存在になって、やや新鮮味がなくなってきたような印象も受けますね。サッカーだって、各チームのいい選手が集まってチームを作っていることに変わりはないのに、野球のような「うわっ、そんなチームになるんか!」っていう驚きが減ってきているというか…(笑)。サッカーの日本代表のことも、野球みたいに新鮮に感じてもらえたら嬉しいんですけどね。
橋上 : 日本代表では、アジアやヨーロッパ、アフリカのチームなどと戦っているみたいですけど、差は感じますか?
橋本 :僕も去年、代表に入ったばかりだし、それまでは興味があまりなかったこともあって、本当に傍観者として見ていただけに偉そうなことは言えないんですけど…(笑)。ただ、実際に代表に入って…例えピッチサイドで見ていても、やっぱり差は感じます。例えばカメルーンと対戦した時は試合そのものには勝ったんですけど、内容的には…。正直、相手は移動もあって、時差もあって大変な状況の中で試合をしているのに、日本よりも走れていて。むしろ、僕らの方が勝つには勝ったけど、攻められっぱなし。しかも、カメルーン選手の試合後のコメントは総じて「コンディション不足だった」ですから。あれでコンディション不足なら…と思わざるを得ない。実際に試合をした選手やスタッフは差を実感していて「これはアカンな」っていう感じでしたしね。彼らがしっかりコンディションを作って、W杯とかっていう大きな大会に本気で照準をあわせてきたら…って考えると、まだまだやるべきことは多いなって思います。ただ、ラグビーとかバレー、バスケットとかって明らかに体格の差がものを言う感じはありますけど、サッカーにはそれがないですから。日本代表がカメルーンに勝つこともあるし、去年のJリーグの優勝争いで、優勝候補の浦和が最下位の横浜FCに負けるっていう事態が起きるのがサッカーですからね。戦える余地というか、勝負できないスポーツじゃない、とは思っています。

text by/misa takamura

橋上秀樹/プロフィール
1965年11月4日生まれ。千葉県出身。東京都の安田学園を卒業後、ドラフト3位でヤクルトスワローズに捕手として入団。3度のリーグ優勝に貢献した。97年に日本ハムファイターズに移籍し、99年までプレー。00年に阪神タイガースでプレーした後、引退した。現役時代の成績は543試合出場。810打数215安打。17本塁打、86打点、28盗塁。
 05年、東北楽天ゴールデンイーグルスの二軍守備走塁コーチに就任し、シーズン途中に一軍守備走塁コーチに昇格。06年に恩師でもある野村克也氏が監督に就任すると、その補佐役として存在感を発揮し、07年にはヘッドコーチに昇格した。今季も野村監督の右腕として手腕を発揮している。