橋本英郎公式サイト「絆」
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vol.11 橋上秀樹(楽天一軍ヘッドコーチ)

橋本 :00年に阪神に在籍された後、引退されましたが、引退後のことって野球界は結構、面倒を見てくれるんですか?コーチになる人も多いみたいですけど…。
橋上 : いや、面倒を見てくれるっていうことはないね。最近は、野球界もいわゆるセカンドキャリアみたいなところにだいぶ力を入れるようにはなってきたけど、まだまだな感じはある。ただ、僕個人の意見としては、そこまでプロ野球界が見なくてもいいんじゃないかっていう気もしているんです。野球をやめた後の人生まで、プロ野球界が心配する必要はないというか…そこは自分でなんとかするしかないだろうって思うんですけどね。要は、引退なんて突然やってくる選手は少ない訳で、自分なりにそろそろ引退が見えてきたなって感じれば、ある程度、その次の人生に備えることの必要性にも自分で気づくべきだというか。サッカーはどうなの?
橋本 :サッカーの場合も最近はセカンドキャリアというか、仕事斡旋みたいなことはやっているみたいですけどね。ただ、サッカーはわずか2~3年でクビになる選手もいますから。長くやって引退した選手はともかく、そこに対するサポートは僕も必要なんじゃないかと思っているんですけどね。

橋上 : 確かに、社会人としての教育が終っていない年齢の選手に関しては…セカンドキャリアっていか教育の一貫として、社会勉強をさせることは必要かも知れないけどね。ただ、一方で、そうやって会社を紹介されて、受身で仕事を始めても長続きしないんじゃないか、っていう風にも思う。プロ野球選手になっている選手は、殆どが、それまで野球しかやってこなかったような選手で、僕も実際そうなんだけど、だからと言って、引かれたレールの上にはずっと乗っかれない訳で。それなら自分で苦労して、自分なりに出来ることを見つけて努力する道を選ぶ方が長続きするような気もするし。セカンドキャリアといっても、ただ会社に放り込めばいいっていうことではないと思うからね。
橋本 :実際にはどういう仕事をしている人が多いんですか?飲食業も多いって聞きますけど。
橋上 : 居酒屋さんとか、店を持つ人は多いよね。手っ取り早いというのもあるんだろうけど。でも、野球に比べるとサッカーの方が引退年齢は早そうだよね。橋本くんも引退後の将来を考えたりすることもあるの?
橋本 :いや、僕はもう少し現役を頑張りたいなと思っているんですけどね。自分なりに、まだ伸びていると信じているので(笑)。橋上さんは現役生活はトータルで何年になるんでしたっけ?
橋上 : 17年ですね。
橋本 :すごいな…僕なんてそれに比べるとまだまだヒヨッ子ですよ。
橋上 : 最後はちょっとずつ身体が動かなくなりながらも、そこをどうごまかして乗り越えていくかっていうところの戦いだったけどね(笑)。
橋本 :僕なんか、既にそろそろごまかし始めていますけどね(笑)。
橋上 : 野球はうまく体力の衰えをカバーできる手段があるというか。でも、サッカーはやっぱり動けなきゃいけないですからね。そういう意味では運動の質が決定的に違うとは思うし、実際に野球はそんなに体力的に充実していなくてもある程度、しっかりとした技術があれば誤摩化せる部分も大いにありますから。そのへんがサッカーより野球選手の方が長く現役生活を送れる理由の1つじゃないかな。ちなみに、野球では平均30~35歳、ピッチャーは28~33歳くらいがピークというか。そのくらいの年が、経験も積んできて肉体的にも一番いい状態だし、メンタル的にも落ち着いてきて、いろんな意味で一番安定してくる時期なんですよね。投げているピッチャーや受けているキャッチャーとか、対戦する相手のバッテリーが自分より年下が増えてくると、気持ち的にも優位に戦えたりもするし。
橋本 :あ~。分かりますね。
橋上 : なんていうか、勝手な考えだけど「ちょっと向こうが遠慮するだろう」って思うんだよね(笑)。
橋本 :野球って、1年に何回も同じ相手と試合をするじゃないですか?そのデータっていうのはある程度、考えながらプレーするものなんですか?
橋上 : 少なくとも、キャッチャーは打席に立ったバッターのデータを大概、覚えているよね。
橋本 :キャッチャーがやっぱり一番そういうデータ的なことを一番考えるんだ…。

橋上 : そうだね。もちろん、ピッチャーでも結果が出た球っていうのは覚えていたりもするし、それを活かして、同じ相手がバッターになった際は「今回は違う球でいこう」とかっていうことを考えたりもする。という心理があるからこそ、打席に立った際は、逆に相手ピッチャーの心理を読んで狙いにいったりするんだけど、そしたら意外に相手が考えていなかったっていうことも大いにある(笑)。
橋本 :そういう数字というか、データがすごく活かされる感覚というのは、野球とサッカーとの決定的な違いですよね。
橋上 : 野球には考える間があるからね。サッカーなんて考える間もないスピードで動いて行くスポーツだから、それは違って当然なのかも知れない。
橋本 :野球には考える間があるのに、考えられない…頭を使えない選手もいたりするんですか?
橋上 : いますね。でもそういう選手は結果的にはやっぱり長く現役をやれていない。その場、その場で、考えずに直感的に勝負した方が結果がでることももちろんあるだろうけど…さっき言ったみたいに、考えていると思って勝負にいったら、相手が全く考えていなかったっていうこともあり得る訳だから(笑)。でも長い目で見た時に考えないで野球をしている選手っていうのは、続かないと思う。
橋本 :采配を振るう方の立場として、代打とか、選手を起用する時にも、ある程度、データというのは活かされるんですか?
橋上 : 個のデータはもちろん、対戦成績とか、こういう場面ではどうだとか、っていう部分の確率はやはり活かされるよね。そこにその日,その日の調子というのをプラスして、じゃあ、この選手でいこう、っていうのを決める時もあるし。
橋本 :そういうのって基本は監督が決めるんですよね?
橋上 : そうだね。
橋本 :その考えが橋上さんの考える采配とずれることもあるんですか?
橋上 : 正直、あるよ。もともと野村監督はあまり動かない人で…でも、今は動くチームが多いということもあって、たまに僕も動きたくなるんだけど。でも僕は根拠なく動きたくなる感じだけど、監督は根拠があって動かない訳だから。その違いは大きい。
橋本 :根拠があって動かないって、すごいですね。

橋上 : それは監督の経験なり、監督としての勘もあるし。トータルした力が働かなければ出来ないと思う。そこは「さすがだな」と勉強になることは多いですよ。
橋本 :なんか、すごい話ですね。僕も今日の対談で勉強になることがすごく多かったです。いい時間になりました。
橋上 : 大したこと話してないような気がするけど、また機会があったら仙台にも遊びに来てよ。っていうか、いまベガルタ仙台はJ1にいないから、遠征で来る機会はないんですよね?
橋本 :そうなんですよ。でも楽天イーグルスのスタジアムの雰囲気もいいと聞いているので、一度見に行きたいなとは思っているんですけどね。
橋上 : 確かに、球場自体は今、一番いいんじゃないかなって思うよ。考えて作られているなって思うし、僕らはあまり使う機会がないけど、売店とかも楽しいらしいし、トイレもきれいらしい(笑)。是非、一度いらしてください。
橋本 :ありがとうございます。またその時はよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。ガンバの試合もまた時間があれば是非、見に来てください。

text by/misa takamura

橋上秀樹/プロフィール
1965年11月4日生まれ。千葉県出身。東京都の安田学園を卒業後、ドラフト3位でヤクルトスワローズに捕手として入団。3度のリーグ優勝に貢献した。97年に日本ハムファイターズに移籍し、99年までプレー。00年に阪神タイガースでプレーした後、引退した。現役時代の成績は543試合出場。810打数215安打。17本塁打、86打点、28盗塁。
 05年、東北楽天ゴールデンイーグルスの二軍守備走塁コーチに就任し、シーズン途中に一軍守備走塁コーチに昇格。06年に恩師でもある野村克也氏が監督に就任すると、その補佐役として存在感を発揮し、07年にはヘッドコーチに昇格した。今季も野村監督の右腕として手腕を発揮している。