vol.37 中川聴乃(バスケットボール選手)
|橋本:そう言えば、以前から一つ聞いてみたいことがあって。バスケットの選手がシュートを打つときって、ボールの弾道っていうか…自分の手からボールが離れてゴールが決まるまでの弧を描く弾道みたいなものって見える?
|中川:他の人のことは分からないけど、私は基本的にゴールを見て打つ感じだから、ボールの弾道は特に気にしていないし、弧の角度などをイメージしてシュートを打つこともはないかな。
|橋本:バスケットの選手で、その弧を見える人っていないのかなぁ。なんていうか…ボールを投げた瞬間に、自分の投げる角度とか、弧を描く感じが見えるというか…。
|中川:どうだろ…基本的には、そこをイメージして投げている人は殆どいないんじゃないかと思いますけどね。逆にサッカーのフリーキックの時に、それをイメージして蹴る人っているんですか?
|橋本:横浜Fマリノスの中村俊輔さんはFKの時のボールの軌道が見えるらしい。だから、例えば、ここにボールを落とすためには、こういう軌道を描けばいいっていうことをイメージして蹴るらしいよ。そう言えば、前に日本代表で一緒だった時に、各自が手で持っているボールをある地点に投げ入れるっていう遊びをやっていたのね。そしたら俊さんが「その角度で入れても殆ど入らないよ。こういう軌道を描いて投げてみなよ」みたいな話をしていて。実際、俊さんは、ボールを入れたい地点と自分との距離の間に生まれる空間を見極めた上でゴールまでの軌道を描き、それにあわせてボールを投げる、と。で、「んん?!」と思ってよくよく話を聞くと、セットプレーの時も一緒らしく、ゴールを見てというよりは、自分が描く軌道にあわせてボールを蹴る、って話をしていたんよね。そういえば、ずっと前のテレビ番組で俊さんの『空間能力』がすごく高いっていうことが取り上げられていたのを見たことがあるけど、それってバスケット選手にも言えるんじゃないかなってふと、思ったから聞いてみたんだけど。だって、バスケットの選手ってゴールの後ろのボードなんかに当てずにサクサク、ゴールを決めちゃうでしょ?
|中川:そうですね。でも、基本は軌道を意識して投げている人は少ないと思う。実際、試合が進むにつれて疲れてくると、ボールの軌道がどんどん低くなってしまって…ゴールまで一直線に投げるみたいな感じになって周囲からは「上げろ!上げろ!」ってよく言われるんです。結局、疲れてくると腕力がなくなってきて上に投げようと思っても投げられなくなってしまう。でも、それを思うと…意識していないだけで軌道というのはある程度、自然と思い描いて打っていることもあるかもしれませんね。
|橋本:今はとにかくしっかりと足を治すことが先決だろうけど、復帰後の目標などは描いたりしている?
|中川:とりあえず今は最初にも話したように、来年4月くらいにはチームの練習に合流できたらいいかなと思っているので、まずはそこからですね。当然、選手として目標はあるけど、まずは動けるようにならないと何も始まらないから(笑)。
|橋本:前にちらっと聞いたことがあるけどバスケットのシーズンって確か10月~3月よね。試合数は年間でどのくらいあるんだっけ?
|中川:リーグ戦は、同じチームと4回対戦することになるので、全部で28試合。その他カップ戦とか天皇杯があるから…1シーズンはマックスでも40試合前後だと思います。だからシーズン中は結構日程が詰まっています。
|橋本:それ以外の6ヶ月はひたすら練習しているの?
|中川:シーズンによっては9月からリーグがスタートする年もあるけど、基本は10月~3月なので、それ以外はひたすらトレーニングです。シーズンが終わってすぐの4月は長いオフが1ヶ月くらいあるんですけど、それ以外はひたすら練習をする。
|橋本:しかも1チームわずか15人くらいでしょ? めちゃめちゃハードそうよね。確か、3部練習とか4部練習とかもあるって言ってたよね?
|中川:ありますね。4部練習の時は、朝食を食べる前に6時くらいから1時間程度身体を動かして、朝食を食べて、9~12時まで練習して、昼食を食べて、15時半くらいから3時間程度練習をして、夕食を食べて、仕上げは20時くらいから1時間ほど…そこは練習というより、シューティングとか、技術的な練習が多い感じです。といっても、私はシャンソンに入ってから殆どケガをしているので、フルで全部の練習をやったことって実はまだ一度もないんですけどね。
|橋本:今年で何年目だった?
|中川:6年目ですね。
|橋本:じゃあ、足が治って戻った時が大変かもね。それだけ練習をして嫌になることってないのかな?
|中川:ゲームがない時期は…さすがに嫌になることもあります(笑)。
|橋本:オフはある?
|中川:週に1回はあります。でも連休は年に1~2回あればいい方だと思う。7月に毎年、1部、2部に関係なく、いろんなチームが集まってサマーキャンプというのをするんですけど…そのあとはいつも1週間くらいの休みがありますしね。ただ、その間にジャパンに選出されると、そのオフも潰れて合宿に招集されちゃったりもするので結局休めない。
|橋本:うちの遠藤保仁状態やね(笑)。代表と言えば、確か聴乃ちゃんもジャパン入りしているよね?いつから?
|中川:高校生の時からです。
|橋本:え?!高校生が代表に?それってバスケット界では普通のこと?
|中川:普通ではないかな…でも私が高校生で選ばれた時は、同年代から3人選ばれていました。これはかなり珍しいケースだったみたいですけど。でも試合にはサブで出るみたいな感じでしたから。その時に「やっぱりいくら選ばれても試合に出なきゃ意味がない」と思ったことも後々、自分が頑張るきっかけになった部分はあった。
|橋本:そんなに毎日ずっとバスケットをやっていて…しかも大きなケガをして、もういいかなって思うことはない?
|中川:今のところは、まだないです。嫌になることは正直あるけど、でも目標があるから、そこにたどり着くまでは辞められないなっていう思いは強いです。
|橋本:それがさっき言っていた『選手としての目標』?
|中川:はい、今はとりあえずチームに戻って試合に出られることが一番ですけど、その後は、やっぱりまた代表に復帰したいです。
|橋本:聴乃ちゃんが感じる『代表』の魅力とは?
|中川:レベルが高い人の中でプレーすることの楽しさというか。動いていても、より自分の良さが引き出されるような感じがするし、実際に出せるし、「ああ、こういうことも出来るんだ!」みたいな発見もあって、刺激もあって、本当に楽しい。
|橋本:世界の中での日本女子ってどのくらいのレベル?
|中川:どうだろうなあ。まずアメリカはダントツに強くて、あとは…オーストラリアとロシアも強い。で、アジアでは最近は韓国が頭角を現しつつあります。少し前までは中国がダントツ強かったんですけど、最近はその差が縮まって来た感じもありますしね。
|橋本:強いチームとの差って何?
|中川:やっぱり体格差あると思う。しかも中国の選手って身長が高いのに動けるし、シュートの精度も高い。それに比べると日本は、中国や韓国の身体能力的な強さになかなか技術で対抗できないという感じはある。ただ日本人にも最近は背が高くて、俊敏な選手が増えてきているので、差は縮まりつつあると思います。/p>
|橋本:そうかあ、そんな話を聞いていたら試合を観に行きたくなってきたわ。でも大阪に女子のチームはなかったよね?
|中川:ないですけど、でも、試合は関西でも結構しますよ。大阪や奈良、京都や神戸でも何度も試合をしていますしね。また時間があれば、観に来て下さいよ。
|橋本:ぜひ行きたいね!お互いもう少し復帰までに時間がかかりそうだけど、しっかり治った暁にはお互いの試合を観戦することにしようよ!
|中川:いいですね!私もぜひまた生でサッカーを観てみたいです。橋本さんは年内復帰はできそうですか?
|橋本:おそらく…ただ、復帰しても今年は「焦らない」がテーマだから。せっかくこれだけ長い時間をかけて治したのに再断裂したら最悪だから、とにかく焦らずマイペースで復帰を目指すよ。今日はどうもありがとう。聴乃ちゃんはまだしばらく病院生活が続きそうだけど、うまく気分転換をして頑張ってね。
|中川:ありがとうございます!
text by misa takamura
中川聴乃/プロフィール
1987年4月26日生まれ。長崎県出身。182センチ。フォワード。地元長崎の仁田小学校から純心中学、純心高校と進み、高校一年生時に名古屋の強豪、桜花高校に転入。その高校3年生時には日本代表に選出される。卒業後はシャンソン化粧品に入社。シャンソンVマジックの選手として1年目から活躍し、同年のドーハアジア大会の日本代表にも選出された。その後は膝のケガに苦しめられる時期が続き、今年、手術を決意。無事手術を終えた今は、リハビリをしながら来年の復帰を目指している。
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