橋本英郎公式サイト「絆」
FRIENDS

vol.18 朴一(パク・イル/大阪市立大学)

: 例えばやけど、ハシモみたいに頭のいい選手は、早めに実業家に転身するとか、解説者になるとか、っていう道を選ぶのもいいんじゃないかなって思うけどね。野球の工藤公康(横浜)くんみたいにボロボロになっても投げ続けるのも魅力だと思うけど、ああやってやり続けるには相当の努力がいる訳で。実際、彼もすごく真面目に野球に取り組んでいるでしょ?専用のマッサージ師を自腹で雇って、年間2000万払っているっていう話も聞いたことがあるし。そういう風に長く頑張ろうと思ったら、お金も実際にかかるやろうしね。誰でもがそれを出来るかと言えば、出来ない選手の方がやっぱり多いと思う。
橋本 :そうですね。カズさんももちろんそういう影での努力というか、自分なりの努力をずっと続けてきているから今のカズさんがあると思いますしね。しかも、カズさんは楽しそうにサッカーをやっている。あれはかなりの理想です。

: じゃあ、ハシモは無様な…といったら失礼やけど、例えば下のリーグでプレーするのも全然、問題ないの?
橋本 :基本は、無様でもいいです。楽しくできれば。だから下の方のリーグでも呼んでもらえるのなら、どこでも行くと思いますし。
: それだけの覚悟があるならたいしたもんよな。年俸が例え300万でも?
橋本 :問題はそこですね(笑)。僕個人がよくても、結婚をして、一人の生活ではないだけに、そのへんは軽々しく答えることは出来ない。
: これから子供でも出来たらまた、大変やしな。でもハシモのことやから、何やかんや言って、ちゃんと貯金しているんやろ?
橋本 :(笑)。いますごいやらしい目で僕を見ましたね(笑)!
: だって前に僕が貯蓄法の本を読んでいたら「先生、これ貸してください」って持って帰ったやんか(笑)。朝日新聞のコラムには株もしているって書いてあったし。なかなかプロ的な投資術が紹介されていたけどなぁ。
橋本 :いえいえ、それほどのことではないですよ!むしろ、そのあたりのことは先生にもっと詳しく教わりたいとは思っていますけど(笑)。
: でもやっぱり自営業っていうのは厳しいよな。僕らみたいな普通の公務員なら、60才まで働いて、そこから更に80才まで生きると考えたら、老後は20年あるわけやん?つまり、1年の生活費を平均の300万で考えたとしても、300万×20年で6000万が必要になる。それを年金と退職金でまかなって…っていうことになるけど、自営業の人たちはなかなかそうもいかんでしょ?特にJリーガーとかは選手生活が終わった後の年金ってどうなっているんかなって思う。退職金があるのか、とか…。
橋本 :その部分も少しずつ改善されてきましたけどね。そういう制度的な部分も充実させようとしている最中ですし。

: アメリカの大リーグって、何がすごいかと言えば、大リーグに10年以上在籍したら引退後、年金が毎年、1000万以上貰えるっていうこと。あれはすごいよね。だからマリナーズの長谷川滋利くんとかも、引退して既に日本に戻っていても、大リーグから貰える年金で基本的な生活は保証される。ああいうシステムが Jリーグにもいるんじゃないかな。
橋本 :はい、それは一応僕らも目指しているんですけどね。ただ、まだ基本のベース資金が整っていないから。スポンサーだとか、Jリーグから降りてくるお金だとかっていうのを選手会としてプールしているんですけど、それがもっと大きくなっていかないといけないし、プラス、選手の会費という部分でどれだけ充実させていけるか、っていうことになるとは思う。ただ、昔に比べたら金額的にも徐々に増えてはいますからね。それが毎年貰えるようになればいいんですけど、そこにはまだ到達していないし、そうなるにはまだまだ問題が多いですね。
: ただ特にプロサッカー選手なんていう職業は、サラリーマンには決して味わえない醍醐味もあるからな。それはそれでお金に代えられない大きな魅力なんやろうけど。
橋本 :そうですね。あの緊張感や興奮っていうのは、あの場に立って戦える僕らの特権ですからね。それは確かにお金には代えられない価値も魅力もありますから。
: 引退してないのに、引退の話をするのもなんやけど、ハシモは子供にサッカーを教えたり、っていうことに魅力は感じていないの?
橋本 :いや、それは理想ですね。学校の先生になって、子供たちにサッカーを指導できたら一番いい。
: 高校サッカーの監督とか?
橋本 :いいですね~。あとはこの大学の監督とか…(笑)。
: 市立大学のサッカー部は弱いからなあ。
橋本 :弱くていいんですよ。強くすればいいんですから。
: ああそういうことか(笑)。弱いところのほうが伸びる可能性が高いしなあ。
橋本 :でも大学の講師とかも魅力ですね。

: それなら大学院に入り直して、少なくとも修士をとらなアカンけど、ハシモなら出来るやろう!あとはスポーツマネージメントとかも面白いやろうけどな。
橋本 :それは興味がありますね。
: 実際に現場を知っている人がそういうのを勉強した方がサッカー界にとっても、絶対にいいと思うしな。だから、42才までボロボロになってもサッカーをしているというのもいいんやけどさ…やけど、な?もう言うなって(笑)?
橋本 :いや、先生。42才までボロボロではないですから。僕は42才までフレッシュにやることを目指しているので(笑)。でも、それもケガ次第ですよね。僕はこれまで大けがはない方ですけど、例えば今の30才という年齢でケガをしたら、いろんな意味で…契約年数とかも含めて、サッカー人生に影響が出てくると思うんです。個人的に元のパフォーマンスが戻るのか、っていう不安が出てきたりね。そのへんを克服できたらまた楽しくやれるんでしょうけど…って考えても引退を考えるきっかけはケガになりそうやなって気もしますけどね。
: 海外でプレーしたいとかは思わないの?
橋本 :思いますよ。
: どこの国に行きたいの?
橋本 :スペインですね。スペインだったら僕の体型でもやっていけるんじゃないかと。フランス、イタリア、ドイツ、とかはちょっとキツいかな、と。
: 中村俊輔(セルティック)みたいにスコットランドリーグとかにいって、チャンピオンズリーグに出るっていうのも一つの選択としてあるよな?リーグそのものの質はプレミアに比べたら明らかに落ちるけど、たどり着く場所は最高の場所って言うこともある訳やから。
橋本 :確かにそうですよね。例えばイタリアのセリエAに行けたとして、下位の方のクラブで頑張っていたとしても、そこでどれだけ活躍してもチャンピオンズリーグに出られる訳ではないですからね。そういう基準で選ぶのも一つの手かもしれない。ただいずれにしても、そこで楽しくサッカーが出来るかどうか、っていうのが問題ですね。

: 実際に海外には行けても、出場機会が減ってしまっている選手も多いしなぁ。日本代表ということを考えてもある程度試合に出ている方がいいに決まっているし。…って考えると、今更ながらパクチソンはすごいサクセスストーリーよなぁ。京都にいる時は、きっと彼自身、想像もしなかったはずの今を過ごしている。ハシモも将来的に海外移籍を考えるなら、弁護士とかをつけるのも、いいんちゃうか?
橋本 :一応、代理人はいますよ。
: そういう人がヨーロッパに仲介してくれるの?
橋本 :そうですね。
: じゃあその人を通じて海外からオファーが来るの?
橋本 :形式上はそうですけど、全くないですけどね。自分からお願いしてチャレンジしてみるということは可能だとは思いますけど。ただ今はそこまでまだ真剣に考えている訳でもないので。ガンバで必死です(笑)。
: そら、今はあれだけ西野監督にも信頼されているんやから、頑張らないとあかんよな。もちろん、日本代表でも頑張って欲しいしね。
橋本 :ありがとうございます。
: ハシモのいる世界は、僕らみたいに一度採用されたら、ずっと定年までおれるっていうサラリーマンとは違って、ちょっとでも気を抜いたらすぐに若手が台頭してきて、いつポジションをとられるか分からへんっていう厳しさもあるやろうから大変よな。ハシモももうベテランの域やし、いろんな意味で神経をすり減らしてやっているんやと思うわ。
橋本 :それは、もう!といっても僕はまだ中堅のつもりでいますけどね(笑)。30才でも中堅。これからもそう思って頑張ります!先生、今日は長い間ありがとうございました。
: いやいや、こちらこそ、久しぶりにゆっくり話せて楽しかったよ。僕はいつでも応援しているし、頑張ってや!
橋本 :ありがとうございます。そういう言葉が本当に嬉しいし、力になります。頑張ります!

text by/misa takamura

朴一(パク・イル)/プロフィール
*同志社大学卒業。同大学院博士課程修了。商学博士。
*専攻:朝鮮半島地域研究、日韓・日朝関係論、在日外国人の人権をめぐる諸問題。
*大阪市、神戸市、伊丹市、堺市などで外国人の人権に関する審議会委員を歴任。2005年、国会参議院国際問題調査会参考人。現在、富士火災コンプライアンス委員。
*マスコミ:NHKテレビ『ETV2000』、『アジアマンスリー』、『関西ニュース一番』、『ニュース9』、TBSテレビ『サンデージャポン』、『みのもんたのサタディずばっと』、毎日テレビ『ちちんぷいぷい』、『VOICE』、ABCテレビ『ムーブ』、テレビ朝日『たけしテレビタックル』、読売テレビ『たかじんのそこまで言って委員会』、『たかじんの非常事態宣言』、『ニューススクランブル』など数多くのテレビ、ラジオ番組にコメンテイターとして出演。
*執筆:朝日新聞全国版に『Eメール時評』(2001~2002年)、朝日新聞月刊誌『論座』に「アジア視察」(1998~2005年)、朝日新聞夕刊に「たまには手紙で」(2007年)をそれぞれ連載。著書に『在日という生き方』(講談社、1999年)、『朝鮮半島を見る眼』(藤原書店、2005年)、『在日韓国人』(ソウルポンム社、2005年)などがある。