橋本英郎公式サイト「絆」
FRIENDS

vol.17 朴一(パク・イル/大阪市立大学)

橋本 :先生の教え子でプロサッカー選手なのは僕だけですか?
: そうやね。ただ、パク・チソン(マンチェスターU)くんは、彼が京都でプレーしている時に何度かお会いしたことはあるね。まさかあのマンチェスターUで、あんなにも活躍するなんて思ってもみなかったし、そのマンチェスターUとハシモのガンバがクラブワールドカップで対戦し、その舞台でハシモがあんな、ウルトラシュートを決めるなんて、夢にも思わんかった(笑)。あれは僕にとって本当に記憶に残るシュートやったよ。さすがに自分でも「(運を)もっているな~」って思ったやろ?

橋本 :いや、思ってないですよ(笑)。っていうか「もっているな」って思っていいんですか?僕の人生、ここまであまりにも「もってるな」グループではなかったもので、よく分からない(笑)。
: いや、あれは「もってる」よ。ただ、僕はあの瞬間、間違いなくハシモはシュートを外すと思っていたけど(笑)。
橋本 :鋭い(笑)。
: で、どうやった?ああいう世界的な、超一流選手とプレーした感想は?結構、プレーでもCロナウドとかと絡んどったよな?彼からボールを奪おうとか、していたし。
橋本 :はい。でもまぁ、実際に戦っている間はいろいろと相手のことを考える暇なく、必死に勝つことだけを目指してやっていましたけどね。ただプレーは全然スケールが違いました。まず、速さが違うのと、グラウンドの使い方が大きい。しかも1つ1つのプレーの正確性にも驚かされた。
: 素人ながら言わせてもらうと、ああいう相手と戦う時に、戦い方は2つあると思う。1つは、圧倒的に力の差がある相手だけに守りを固めて、ぶさいくな負け方だけは避ける。何て言うか、ディフェンス中心のサッカーをして、チャンスがあれば一気に攻め込む、と。そしてもう一つは、ガンバの戦い方。要は点を獲られてもいいから、点を獲ろうぜ、的なサッカーよね。でも結局、ガンバはガンバのスタイルを貫いたからいい試合になったと思うけどね。勝たなくてもいい…とはいわないまでも、自分たちを魅せよう、みたいなね。
橋本 :勝つ気は満々でしたけどね。ただ、先生がおっしゃるように守るというより、点を獲りにいくこと貫こうと思っていた。試合前は、「どんだけやられるんかな~」って不安もありましたけど(笑)。
: マンチェスターUを相手に3点も獲れてんから、たいしたもんよな。あれが5-0やったらちょっと格好つかんけど。
橋本 :相手も僕らが点を獲ったことで…2-1くらいから急に変わりましたからね。本気になってくれたというか。だから僕らも楽しんでサッカーが出来た。
: にしても、あのハシモのシュートは…あまりにもいいところにいすぎて外すやろうと思ったら、スーパーなゴールが決まって、テレビでもアップで映し出されて。その後に結婚式やろ?まさに、結婚式のためのシュートって言ってもいいくらい、出来すぎやったね(笑)。って考えても、去年はホンマにハシモにとっていいこと続きやったから、たぶん、これから先は悪いことしかないで(笑)。
橋本 :いやいやいや、せっかく少し「もってる」風が来てるんですから、もう少し続けさせてくださいよ(笑)。でも確かに、ACLも優勝できて、マンチェスターとも戦えて、ゴールも決められて、元旦も優勝できましたからね。去年はホンマにいいことがたくさんありました。
: で、結婚生活はうまくいってる?
橋本 :まあまあ、いってる方だと思います。といっても、昨日、喧嘩したばかりですけど(笑)。
: そら、喧嘩もするわなぁ。
橋本 :でも食事を含め、いろんな面でサポートしてもらっているので、結婚して良かったなと思います。
: これからは奥さんのためにもプロサッカー選手を頑張らないとアカンな。
橋本 :それはホンマに思いますね。結婚して調子が悪くなったとか言われたくないので、今はその一心で頑張れています。

: 将来のことは考えているの?っていうか、端から見ていても、Jリーグは今、転換期にきていると思うんよね。その中では選手の待遇も含めたステイタスをあげていく努力をもう少しすべきじゃないか、と。今、日本のプロ野球選手の平均年俸は1軍の選手で1億円くらいやけど、それと比べてもあまりにサッカーは低すぎる。しかもサッカー選手は働ける期間も野球ほど長くはないのに、今のままではプロを目指す子供も減ってしまうんじゃないかなぁ。もちろんハシモみたいに日本代表にでもなれば、何かしら引退してからも仕事はあるかも知らんけど、みんながそうじゃない。そう言えば、この間、テレビ番組でハシモの後輩、とかっていう元ガンバの選手が出ていたよ。バームクーヘンを西宮で作っているとか…。
橋本 :サキ(嵜本晋輔)ですね!僕の3つ年下の後輩です。結婚式の引き出物にもさせてもらいました。ブラザーズっていう名前の店なんですけど。
: サッカーを引退して店を始めたんよな?ってテレビで言ってたし、ハシモの後輩って言っていたから「ああいう人を応援してあげなあかんな!」ってかみさんと一緒にその店まで行って食べてきたんやけど、ああやって、サッカーを引退すれば自分で第二の人生を切り開いていかなアカンねんからな。大変やと思うよ。
橋本 :で、美味しかったですか?
: バームクーヘンの味は最高やったけど、店員の対応が悪くてな(笑)。
橋本 :そのコメントはサキのためにも敢えてカットせずに、ちゃんと掲載しておきます(笑)。で、どんな風に態度が悪かったんですか?
: とにかく、お客がイライラしとったわ(笑)。あの地域はスイーツの激戦区やし、あそこで生き残るのも大変やと思うけど、是非頑張って欲しいとは思っているけどね。その話はいいとして、そう言えばさ、サッカーって契約更改の時に年俸が明らかにされないでしょ?プロ野球の選手はある程度、明らかになっているけど…あれは何か戦略的な理由から、わざと隠しいてるの?僕としては夢を与える商売やし、提示をするのもアリかなって思うんやけどね。
橋本 :サッカーの場合、逆に提示すると逆に夢がなくなるからかも(笑)。野球みたいに、5000万アップとか、1億に到達したとか、そういう大きな話はサッカーにはなく、例えば「300万から150万円アップしました!」みたいな感じで可愛いものですからね(笑)。そういうのがバレると逆に夢がなくなるのかも(笑)。
: 日本代表になったら大幅にアップするとか、そういうのもナシ?
橋本 :ないですね(笑)。
: サッカーはまだまだ、お金というより名誉なんかなあ。

橋本 :J2だとかJ1でも下位の方のチームの若い選手なら、例えばサラリーマンをしていてもあまり変わらないという選手が多いっていうのもあるかも知れませんね。しかも、サラリーマンには将来の保証があるけど、プロサッカー選手にはこの先どれだけサッカーを出来るのか、将来の保証はないし、サラリーマン以上に綱渡りの人生ですからね。そうなると、全てをオープンにするのがいいのかどうか…そういう意味で、Jリーグも発足から15年以上経った中で、いろんな意味で難しい時期に差し掛かってきているんじゃないかと思います。
: だからこそもう少しチーム数を改善するとか、さっきも少し話に出た、選手の待遇改善、第二の人生についても、もっと真剣に考えていかなければいけない時期に来ていると思う。
橋本 :第二の人生については選手会も含めて、だいぶサポートがされるようになってきましたけどね。ただ、仕事は紹介してもらえたとしても、金銭的な部分の保証だとかを考えると、難しい部分がまだまだたくさんある。
: 確かにそのへんは難しいよね。今まで何千万と貰ってきた人が、急に「じゃあ、今日から月20万で」っていう訳にはいかないやろうし。それはプライドということを加味して考えてもね。そういう意味ではサッカー選手も何才までやるか、どこで区切りをつけるかは相当みんな考えているんやろうなぁ。ハシモは何才まで現役をやりたいと思っているの?
橋本 :42才です。
: その数字はどこから出てきたん?!
橋本 :カズさん(横浜FC)が基準ですね。
: なるほどね~。ただカズさんやゴンさん(中山雅史)くらい、カリスマ的な存在になれば、そういう生き方も認められるやろうけど、何て言うか…言い方は難しいけど"やめ時"っていうのはホンマにしっかり選択しないとあかんよね。僕なんかは、ハシモにはボロボロになるまでやるより、スパッと日本代表のままでやめて欲しいけどね(笑)。
橋本 :代表のままなら、すぐやめないといけないじゃないですか(笑)!もう少しやらせてくださいよ!

text by/misa takamura

朴一(パク・イル)/プロフィール
*同志社大学卒業。同大学院博士課程修了。商学博士。
*専攻:朝鮮半島地域研究、日韓・日朝関係論、在日外国人の人権をめぐる諸問題。
*大阪市、神戸市、伊丹市、堺市などで外国人の人権に関する審議会委員を歴任。2005年、国会参議院国際問題調査会参考人。現在、富士火災コンプライアンス委員。
*マスコミ:NHKテレビ『ETV2000』、『アジアマンスリー』、『関西ニュース一番』、『ニュース9』、TBSテレビ『サンデージャポン』、『みのもんたのサタディずばっと』、毎日テレビ『ちちんぷいぷい』、『VOICE』、ABCテレビ『ムーブ』、テレビ朝日『たけしテレビタックル』、読売テレビ『たかじんのそこまで言って委員会』、『たかじんの非常事態宣言』、『ニューススクランブル』など数多くのテレビ、ラジオ番組にコメンテイターとして出演。
*執筆:朝日新聞全国版に『Eメール時評』(2001~2002年)、朝日新聞月刊誌『論座』に「アジア視察」(1998~2005年)、朝日新聞夕刊に「たまには手紙で」(2007年)をそれぞれ連載。著書に『在日という生き方』(講談社、1999年)、『朝鮮半島を見る眼』(藤原書店、2005年)、『在日韓国人』(ソウルポンム社、2005年)などがある。